春の温かな風が吹き始めている。
体も自然と軽やかになり、嬉しいことに、日没まで時間もずいぶんと長い。
新しい制作が始まる日の夕暮れ時。島の西側にある珊瑚礁の浜辺まで車を走らせ、これからお二人の結婚指輪へと形を変えてゆくプラチナを、移ろう色彩の中で眺めていた。
やがて、太陽が水平線の近くまで降りてくると、海の上に光の道が伸びた。
ふわりと霞がかったオレンジ色の世界が、新しい季節の訪れを静かに伝えていた。
海から昇る太陽を眺めることも、海へ沈む太陽を見送ることもできる。
それは、小さくて丸い島での暮らしならではの喜びかもしれない。
アトリエにいても、散歩をしていても、いつもどこかから潮騒が聞こえてくる。
海のある暮らしには、わたしはずいぶん長いこと憧れてきたように思う。
島の日々の中に巡り、響きあう波のリズムを感じながら、ジュエリーを作りたかった。
アトリエに戻り、作業机まで直行する。
窓の向こうは、まだ薄明るい。
潮の余韻が、まだ体に残っている。
この何気ない癒しを、海が大好きなお二人と分かち合うことができるのが何よりも嬉しい。
ふと、そう思った。
細いプラチナを酸素トーチの炎に包み、緊張を解くように柔らかくしてから、くるりと丸くする。
その両端を、お二人のサイズに合わせて糸鋸でガリガリと切り落としていく。
まずは、最初の一歩だ。
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