庭先にポコポコと芽吹き始めた春を眺めながら、東京に暮らすお二人に届ける結婚指輪を作っている。
屋久島らしい柔らかな雨と、体を包み込むような湿度も、どこか少し懐かしくて、心地よい。
お二人とは遠く離れているけれど、大切に思う何かを共有していると思うと、不思議と心強い。
ここに確かにあるつながりを感じながら。
海に囲まれた小さな島に暮らしていると、自然が織りなすリズムがあることに気づく。 それらは響き合い、重なり合いながら、あらゆる事象を生み出している。
時とともに姿を変える力が、小さなリングに響くように、ひとつひとつタッチを重ねていく。
くるりとリング状にし、お二人のサイズに調整したプラチナを、酸素トーチの炎にあてながら、その両端を繋ぎ合わせた。
約1500度まで温度を上げ、繋ぎ目の隙間に融点の低いプラチナを溶かして流し込む。
温度が低いとうまく流れないし、逆に上げすぎて周囲まで溶かしてしまわないよう、細心の注意を払わなくてはならない。
シックな作業ではあるが、前半のクライマックスともいえる場面だ。
うまく作業を終えることができ、ほっと一息。
料理で言うところの下拵えが完了し、これからいよいよ本格的な造形作業を迎えることになる。
お二人から初めてメールをいただいたのは、去年の冬が始まる頃だった。
「ダイビングが趣味ということもあり、島が大好きで」と綴られた言葉に、まるで仲間ができたみたいな嬉しさを感じたのを、今でもよく覚えている。
これからリングに施すのは、わたしたちが大好きな海からインスピレーションを得た、波や風にまつわるデザインだ。
作業の手を止めて、庭先を眺める。
遅咲きのヒカンザクラにメジロが集まり、夢中になって何かをついばんでいる。
南からのうねりだろうか、遠くから波の音が聞こえてくる。
そんな様子をぼんやりと眺めながら、わたしはミルクを温め、コーヒー豆をミルでガリガリと挽いている。
ぽつり、ぽつり。また雨が降り出したようだ。
そして、作ったカフェオレを手に取り、作業机に戻る。
このようにして、島の1日は静かに過ぎていくのである。
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