お二人の結婚指輪を作っている間に、アトリエの庭先には、春の花が次々と咲きはじめました。
黄色やマゼンタ、ピンク色。
名前も知らない草花もありますが、懐かしい顔ぶれとの再会に心を踊らせながら、作業机に向かっています。
ゆっくりと、けれど力強く、確かに歩みを進める植物たちにペースを合わせるように、ですね。
作業もいよいよ終盤へと差し掛かりました。
シルバーリングの表面を丸く柔らかに、
そして側面にはフラットな部分を残して、すっきりとした印象に仕上げていきます。
手にする道具は、粗さの異なる鉄鋼ヤスリを3本。
あとは、手の感覚を頼りに、少しずつタッチを重ねていく。
これまでに何度となく、似たシルエットのリングを作ってきたけれど、
生まれてくる形がいつも新しいところが、手作業の大好きなところです。
お二人との出会いや、島の季節に導かれるように、少しずつ、少しずつ。
まずは彼のリングから。
ガリガリと、静かなアトリエにリングを削る音が響きます。
はるか昔から変わらない手作業であります。
彼のリングがある程度形になったところで、今度は彼女のリングを削り出す。
二つのリングのバランスを整えるように、交互に磨き上げていく。
片方が少し進めば、もう片方がそれに追いついていく。
シーソーのような工程を繰り返しながら、何日かを過ごしました。
春の穏やかな風と、散歩途中のネコくらいがアトリエのまわりを通り過ぎていった、とても静かな時間でした。
月見草が咲いていることに気がついたのは、ちょうどシルバーリングのアウトラインにカーブを施し終え、そのシルエットを眺めようと庭に出た時のことでした。
そういえば、シルバーには、開いたばかりの花びらのような、無垢な手触りを感じることがあるなあ。
彼女の2.0mm幅と彼の2.6mm幅。
柔らかな曲線をまとい、とてもピュアな佇まいです。
この優しい雰囲気をそのままに、長く安心してお使いいただける丈夫さを持つというのが、理想としているところ。
これから金属をキュッと引き締めながら、強く仕上げていきます。
あと少し。
ゆっくりと時間をかけて仕上げ作業を施し、リングはやがて、洗練されたフォルムへとたどり着くわけですが、
出来上がりはもう少し先のお楽しみに。
屋久島から海の向こうに暮らすお二人にお届けするシルバーリングの完成編は、また別のお話で。
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制作編