夜更けから、激しい雨が降り続いている。
6月になってからはずっと晴天が続いていたけれど、ようやく梅雨らしい気候になったのかもしれない。
窓の向こうからは、ばちばちと、ハイビスカスの葉を叩く雨音が聞こえてくる。
緑はどこまでも深まり、まるで水に包まれるような感覚にとらわれる。
その深淵に、呼吸を合わせるように、心も平らになっていく。
雨の日のジュエリー作りが、とても好きだなと思う。
プラチナリングに宿る、光と影の印象。
お二人の結婚指輪作りは、二本のプラチナを酸素トーチの炎に包み、くるりと巻いたところまでを書きました。
さて、そしてこれからいよいよ、プラチナリングを切削する工程に入るわけだけれど、
使う道具は、案外、とてもシンプルだったりもする。
鉄鋼ヤスリ(目の粗いものと細かいもの)とルーペ。
そして寸法を計測する定規と、それをリングに記すための毛描きコンパスとペン。
小さな金槌はコンパスを調整するときに使うもの。
いつも思うのだけど、道具をできるだけシンプルに整えると、金属の手触りがダイレクトに伝わってきて、一つ一つのタッチが楽しくなる。
雨の日に眺める、しずくの煌めきだったり。
夜に眺める星屑だったり。
まったく別の方向へ向かっているように思えるものたちが、
実はいつも隣り合っていて、お互いを際立たせ、補い合っている。
そのようなことを、島での暮らしが教えてくれたように思う。
きっと数時間ほどだっただろうか。
二本の鉄鋼ヤスリを片手に、一気にここまでやってきた。
夢中になって、時を忘れるほどだった。
雨音の心地よさも、作業の集中を深めてくれていたように思う。
削り出した斜面がエッジを作り出し、星の軌道のように、緩やかなカーブを描きながらプラチナリングの表面を巡っている。
角度が急なところ、なだらかなところ。
リングを回すたびに、違った表情が現れる。
指輪をつけたとき、いつも新しいきらめきに出会うことができると、楽しくなる。
造形作業が進むにつれて、近しい未来を思い描くようになる。
このリングがお二人の手に届くまでは、もう少しかかるけれど、それまでの時間も、大切に味わっていこう。
削り出した彼女のリングの向こうには、まだ手を加えられていない彼のリングがある。
ここでバトンをタッチして、彼のリングの削り出し作業に取り掛かることにしよう。
彼女のリングを横に置いて、そのシルエットをなぞるように、かたち作っていこう。
雨は、相変わらず激しく降り続いていたはずなのに、不思議なほど静かだった。
目の前でたしかに育まれゆくシルエットを愛おしく眺めながら、その清らかなひと時に身を委ねていた。