屋久島サウスに、夏の気配が漂い始めている。
梅雨のあいだ、水平線に重たくかかっていた雲は、ずいぶんと薄れてきた。
昼間はぐっと暑さを感じるようになり、久しぶりの晴れ間に誘われて、ビーチへ出かけることにした。
浜辺をのんびりと歩いていると、打ち寄せる波の勢いや、少しひんやりとした水が、とても心地よかった。
いつものビーチは、アトリエから車で15分走ったところにあり、平日の昼間には決まって誰もいないので、心を静かに整えるにはちょうど良い場所かもしれない。
新しい制作が始まる前には、ここにやってきて、作業のイメージをゆっくりと広げていく時間がとても好きだ。
これから結婚指輪をお作りするお二人と、大好きな海で繋がっているということも、なんだか素敵なタイミングのように思えた。
緩やかな風が、山から海へと通り抜けてゆく。
水平線の方角から差し込む光が眩しくて、思わず目を細くする。
潮騒に包まれているのに、不思議と、静けさの中にいるように感じられる。
そうだ、このフィーリングなんだ。
ほんの15分ほどだったのに、気がつけば、新しくなっている自分がそこにいた。
アトリエに戻り、さっそく作業机に向かい、指輪作りに取り掛かることにした。
鉄鋼ヤスリを手に取り、リングの表面を思い切りよく削り出していく。
光も音も、風も。まだ海の余韻に包まれている。
水の中にいる時も楽しいけれど、海にまつわる暮らしやジュエリー作りが、やっぱりとても好きだなと思う。
お二人がアトリエを訪ねてくれたのは、島に新緑が芽吹き始めた春先のことだった。
一緒にコーヒーを飲みながら、お二人の出会いについて、思いきって訪ねてみたのだけど、
「二人ともサーフィンをしていて、海で出会ったのです」と話してくれたのが、とても印象的だった。
「本当に、海の上で?」と、わたしが聞く。
「そう、海の上で」と、おふたりが笑って言う。
屋久島と千葉と。遠く離れた場所に暮らしてはいるけれど、大切なことで繋がっていることが、嬉しい。
こうして指輪作りをご一緒できることが、自然の流れの中にあるように感じられて、心から信じられるように思う。
おふたりとの、素敵な出会いにありがとう。
夕暮れ時には、一日の作業がひと段落した。
作業机の上に並べた二本のリングを眺めると、削り落とされた金属片がキラキラと輝いて綺麗だった。
お二人のリングは、お揃いのシャンパンゴールドで作っている。
シャンパンゴールドには、ゴールドの煌びやかさの中に、どこか植物のような穏やかさがあり、有機的でやわらかな手触りを感じることができる。
自然の中で過ごす時間を愛するお二人に、ぴったりの素材のように思う。
これまでお二人と大切に育んできたイメージが、いよいよかたちになり始めたところだ。
じっくりと、ひとつひとつのタッチを重ねていこう。
このシャンパンゴールドに、海のリズムを刻み込むことができればいいと思う。