いつもより少し涼しく感じる朝だった。
山際にかかる雲がオレンジ色に染まっている。
島の朝特有の、重たい湿度を感じながら朝食を済ませ、すぐに作業机に向かう。
まだ一日が本格的に動き出す前に、制作の続きを始めることができると、一日が充実したものになる。
おふたりの結婚指輪も、気がつけばもう中盤に差し掛かろうとしている。
アトリエでお会いした日のことや、これまでの色々を懐かしく思い返しながら、この日の造形作業のイメージを頭の中に描き出していた。
季節は梅雨を越えて、真夏へ。
サンフランシスコと屋久島を紡ぐようにして、
おふたりにお届けする結婚指輪を作っている。
相談会では、ツワブキの花をモチーフにしたリングを、彼女がとても気に入ってくれたのだけど、
わたしも大好きな花を、同じように好きになってくれた仲間ができたようで、とても嬉しかった。
秋が過ぎて、少しずつ寒さを感じるようになる頃、
手のひらを開くように、ぱっと元気に咲く黄色い花に出会うと、あたたかな気持ちに包まれる。
ツワブキの花は、庭先に集まるように咲くことが多いけれど、
一輪で佇む姿も、なんとも愛らしい。
花のフォルムはもちろんだけど、その愛おしさや心響くときめきのようなものを、分かち合うための表現とは。
その放射状の花びらは、プラチナを使って、8mmほどの大きさに仕立てた。
組み合わせるイエローゴールドのリングは、幅1.2mmで作っておいた。
リングは、茎のように細く仕上げておくと、咲いた花の姿が、指の上に浮き上がるように感じられるからだ。
その細いリングに、0.8mmの穴をドリルで慎重に開けておく。
花の裏側には、中心から伸びる0.8mmの金線を接続する。
強度や安定感を生み出すために、表には見えない部分の仕事をしっかりと頑張る。
ここで初めて、リングと花が一つとなり、ほっと一息。
微妙な調整を重ねてきたおかげで、角度も自然で、安定感もある。
お二人と一緒にタネをまき、これまで育んできた苗が、いよいよ花を開かせようとしている。
嬉しくなって、つい急ぎたくなってしまうけれど、ここはじっくりと時間をかけて進めていこう。
植物たちのペースに習って、ですね。
作業を終えて、日没の空に、ちょうど半分ほど欠けた月を眺めた。
明るくて、どこか青みを帯びた夜の始まりだった。
2025年の夏が、静かに、そして力強く、その鼓動を繰り返している。
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