早朝の散歩道で、オレンジ色に染まる朝焼けを眺めた時を境にして、島は強い風雨に包まれた。
秋雨前線がもたらすこの荒天は、これから数日間続くことになり、その間は流通も途絶えることになる。
屋久島の、この季節ならではのリズムだ。
久しぶりにまとまった雨が降り、島が外界から隔たれてしまうと、アトリエでの制作に自ずと集中が深まっていく。
窓の向こうに響く雨音を聞きながら作業机に向かい、
雨足が弱まると庭先に出て、湿度に満ちた世界を楽しんでいた。
新しい季節がもたらした鋭敏な感覚のおかげだろうか。
プラチナリングの造形作業も、この二日ほどで大きくその進捗を加速させることになった。
植物との親和性、という感覚は、実はジュエリー作りにおいて最も大切にしているところだったりする。
硬くて冷たい金属に、どのようにして、やさしさや温度を与えていくのか。
その尽きることのない興味に、庭先で出会う植物たちや雨の雫は、いつもインスピレーションを与えてくれる。
おふたりには、婚約指輪としてお花のリングをお作りした。
彼女が重ねて身につけるとき、ふたつのリングがやさしく馴染むように仕立てていきたいところだ。
2本のリングの造形が揃ったところで、庭先に持ち出し、そのシルエットを眺めてみる。
ここまでくると、「ずいぶんプラチナを削ぎ落としたな」という感覚だけど、これでようやく6割ほどの削り出しになる。
少し足を伸ばして、散歩に出かけようとしたところ、また雨が強くなってきたので、アトリエに戻ることにした。
シダの葉が雫を纏う、その佇まいを胸に留めておく。
さて、これからリングに大きく力をかけていく大切なところ。
その工程を控え、酸素トーチの炎でプラチナを焼きなましておく。
リングの緊張が解けたところで、鉄の枠にあて、木槌で叩きながら圧をかけていく。
タッチを重ねるたびに、リングは大きくその形状を変え、新しい表情を宿していく。
一度整えたものにダイナミックな変化を加えるのは、なかなか思い切りのいる作業ではあるが、頭の中にしっかりと、少し先の未来を思い描きながら、慎重に、そして思い切りよく手を進めていった。
やがて、リング全体に柔らかな曲線が生まれたところで、芯金に通し、コンコンと木槌で叩きながら内側の円形を整えていく。
これまでにも何度も繰り返してきた手作業は、とても素早い。
叩くたび、手の中でプラチナが少しずつ硬さを取り戻していくのがわかる。
理想のフォルムが生まれ、サイズがぴたりと合わさる瞬間は、いつまで経っても職人冥利に尽きる喜びだ。
おふたりの指輪作りも、いよいよ折り返し地点を過ぎたといったところだ。
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制作編