
彼女のリングは、とても繊細なシルエットに仕立てていく。
表面には、彼のリングと同じように、緩やかに波打つラインを削り出した。
最初は何もなかったところに、少しずつ、かたちが生まれていく。
その時間が、まるで奇跡のように感じられる。
作業もいよいよ終盤を迎え、屋久島に滞在していたおふたりから、はじめてメッセージをいただいた時のことを、しみじみと思い出していた。
実は、おふたりの結婚指輪づくりのきっかけとなる、一つの出会いがあって、
長く暮らした大阪で、ゆるやかに育まれていた小さな時間の話を、少しだけしておこうと思う。
それは、今からおよそ十五年以上も前のことになるのだけど、
あの時の何気ない出会いが、今に繋がるなんて。
もちろん、その頃は思いもしなかった。

そのカフェレストランは、大阪・心斎橋筋商店街を少し外れた、昔ながらのビルの二階にあった。
細い階段を螺旋状に登っていくと、ぱっと明るい雰囲気が広がる。
隠れ家的な場所だった。
わたしは近くで個展を開いていた時に、そのお店を偶然見つけたのだけど、
洗練の中に温かみのあるムードが大好きで、大阪に帰る折には、妻と一緒に時々立ち寄らせていただいた。
どのお料理も、ナチュラルな製法で仕上げられた品のあるもので、
それを作る彼女には、作り手としての親しさのようなものを感じていたのをよく覚えている。
あれから、心斎橋は大きく変わり、
わたしたちもまた、それぞれの場所でそれぞれの時間を歩むようになっていたけれど、
それでもゆるやかにSNSで繋がっていた。
そして、彼女の大切なご友人が、お仕事で屋久島に長く滞在することになったのは、今から二年ほど前のことだった。
ご友人から初めてご連絡をいただいた時、
細くて透明な糸が、ずっと前から繋がっていたのだと気づき、とても嬉しかった。
もちろん、おふたりとは島で初めてお会いしたのだけど、
そこには、形を持たない“確かさ”のようなものがあった。
わたしたちが今ここで出会うことを信じながら、結婚指輪を作ることができているように思う。
あの時、あのビルの階段を登っていなかったら、
あるいは、また別の時間が流れていたのだろうか。
そう考えると、この瞬間が、いっそう貴重なものに感じられる。
こうして、おふたりとともに結婚指輪づくりができる今に、ありがとう。

時のリズム。響き合う煌めき。
二本のリングを初めて重ね合わせてみる。
ぴたりと寄り添うその佇まいを眺めていると、
おふたりのことを思い出して、
なんだかほっこり癒された。
繊細で、そして力強いラインを作り出すことができたように思う。
そのリングは、おふたりが出会い、生まれた時間そのもののようでもあり、
同時に、屋久島の風土が育んだ、深く、抑揚に満ちたフォルムのようにも思う。

夕暮れ時、作業をひと段落し、空に姿を現したばかりの月を見上げた。
ちょうど、円を半分にした形の月だ。
リングの内側には、これから刻印を施し、最後の磨き仕上げを進めていく。
そして、リングが完成するのを合図にするように、また新しい時間が始まることになる。
月のように巡り、波のように寄せては引いてゆく、
永遠の時の流れを感じながら。
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制作編




















 
 



















 
  
 