
夜空のように澄み渡る濃紺の石が、屋久島の緑の中で静かに輝いている。
ローズカットに研磨されたその石の表情は、とてもやわらかい。
角度を変えるたびに姿を変える小さな煌めきを眺めながら、いよいよ制作が始まるのだという胸の高鳴りを感じていた。
おふたりとの結婚指輪作りでは、それぞれのために選んだ天然石がデザインを支える大切な柱になっている。
彼のタンザナイトは濃く深い色合いのものを選び、ローズカットに研磨するところから始めた。
彼女には、同じローズカットで、同じサイズのダイヤモンドを用意した。
その二粒の石に寄り添うように、二本のリングと一本のネックレスのデザインを組み立ててきた。
タンザナイトの深く思慮深い静けさと、シックで品のよいダイヤモンドの煌めきそのものを纏うような、シンプルで印象的なフォルムだ。

彼女から初めてメッセージが届いたのは、島にもまだ少し寒さの残る春先のことだった。
天然石の選定や、それに合わせる金属選びに相談を重ねているうちに、気がつけば夏が過ぎてしまった。
彼女には、何通りものデザイン画を描いてもらったり、電話で長い打ち合わせにお付き合いいただいたりもした。
慣れない作業だったと思うけど、これまで本当にありがとう。
こうして準備に十分な時間をかけたおかげで、造形の向こう側にある大切な想いまで、しっかりと分かち合えたように思う。
おふたりと手を繋いでいるような、あたたかな安心感に包まれながら。

作業机に向かい、タンザナイトを包み込む石枠の制作に取り掛かる。
待ちに待ったファーストタッチに、心が静かに高鳴る。
タンザナイトに合わせるホワイトゴールドは、すっきりと深いダークトーンを表現するために、できるだけ黄色味を抑えた配合のものを選んだ。
今回初めて挑戦することもたくさんある。
最初に、4.0mmの石がぴたりと収まるよう、ホワイトゴールドの板を巻いて円筒形の小さなパーツを作った。
次に、その内側にちょうどはまる大きさで、もう一つの円筒形のパーツをつくる。
この内側のホワイトゴールドが石を支える土台となる。
とてもシンプルな仕組みだけに、仕事の美しさや造形の心地よさが、そのまま表に現れやすくなる。
タンザナイトの色彩を最大限に響かせられるよう、丁寧に、ゆっくりとタッチを進めていく。
一度しかない、この指輪作りの時間をしっかりと味わっていく。

季節が深まるにつれ、島では空が澄み、空気が冷たく感じられる日が多くなってきた。
庭先では、シロツメクサや、赤や白のハイビスカスが、生き生きとした表情で迎えてくれる。
朝露に包まれた緑の中を歩くのは、心が躍る。
南の方角から潮風に乗って波の音が聞こえてくる。
いつもの島の時間に励まされ、また作業机に戻る。
このようにして、おふたりの指輪作りは、穏やかに、その歩みを進めていくのであった。
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