
久しぶりに、長く雨が降り続いた。
秋の深まりを感じさせる、冷たくて静かな雨だ。
この日は朝からずっとアトリエにこもり、雨音に包まれているような深まりの中、花をモチーフにしたプラチナリング作りをこつこつと進めていた。
雨足が弱くなってきたところで、作業の手を止め、庭先に出てみると、金木犀の花が、たくさんの雫を抱いていた。
その黄色くて楽しげな佇まいを眺めているだけで、励まされる。
甘くて爽やかな香りが、遠くで眠っていた感覚を呼び覚ましてくれる。
花は、小指の先端に収まるほどに小さい。
小さいものに、これほど愛おしさを感じてしまうのは、どうしてなのだろう。
まだ背丈よりも低い金木犀の木の下に座り込み、夢中になって眺めていると、また雨が強くなってくる。
そして、急いでアトリエへと戻る。
今年の金木犀も、いよいよ満開に近づいた。

さて、アトリエです。
作業台の上に並んだ、五つの小さな造形。
花弁の制作をひと段落させたあと、プラチナの板を4mmほどの葉の形に切り取り、タガネで表面を叩いて丸くて柔らかな表情を与えた。
同じ工程を並行して五回ずつ丁寧に繰り返し、最後に全体を磨き上げる。
仕上がった小さな葉は、どれもわずかに不揃いで、その揺らぎが有機的な個性を生み出している。
その個性を、うまくまとめ上げるようにして、一つ一つのタッチを積み重ねていく。
もし、右側に偏りが生まれると、左側にほんの少しの調整を加えながら、最高の仕上がりを目指していく。
手作業から生まれる、かけがえのない造形は、時間に似ているように思う。
5枚の花びらを一つにつなぎ合わせ、花弁と組み合わせた。
酸素トーチの細く高温の炎を使いながら、溶接作業を何度も繰り返す、細やかで緊張感の続く工程だったけれど、
端正なフォルムに仕上がり、ほっと一息といったところだ。
プラチナと、ダイヤモンド。細い線と薄いプレート。
限りなくシンプルな要素が集まり、一つのリングへと紡がれてゆく。
その時間はまるで、本当の花が咲こうとしている瞬間のようで、
そこに宿る、奇跡のような美しさを感じずにはいられない。
夕暮れ時、気がつけばもう雨は上がっている。
窓を大きく開き、フレッシュな空気の中で、その小さなプラチナの造形を眺めていた。

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