
夜明けの空に、オレンジ色に染まる鱗雲が広がっていた。
山から吹き下ろす風は、ひんやりと冷たい。
もう7時前だというのに、山々の稜線はまだ深い闇の中にあった。
一年ぶりに眺める、窓際の風景が爽やかに感じられて、そのまま少し遠出をして、朝の散歩に出かけることにした。

コスモス畑は、海を望む段々畑の一角にあった。
朝のやわらかな陽光を受けて、マゼンタや白、ピンクの花々が、気持ち良さそうにゆらめいている。
畑の畔には、人が一人通れるほどの細い道が伸びていて、その小径を辿りながら奥の方へ分け入ってゆく。
湿度を帯びた草の香りが、ふわりと立ち込めている。
腰を下ろして、目線を低い位置に移すと、カラフルな世界に包まれて心が躍った。
なんだか、子供の頃の記憶にも、同じような色彩があったよな、と思う。
あの頃からずっと変わらないけれど、ほんのりと冷たくて、ほんのりとあたたかな秋のひとときに、今日も癒された。
タンザナイトとダイヤモンド。
夜の空と、雫の煌めき。
想いの詰まった大切な時間をそっと掬い取るようにして、おふたりの結婚指輪をお作りしています。
「タンザナイトをセットする彼のリングとネックレスは、夜をイメージして、できるだけ黒いイメージで仕上げてほしいのです。」
指輪作りの始まりに、おふたりがそうリクエストをしてくれた。
すぐに、ホワイトゴールドが思い浮かぶ。
きっと、これが夜の印象にもっとも近いだろう。
それでも、できる限りそのイメージに近づけたいと思い、地金の配合を見直すことにしたのだけど、
その過程で、“黒”という存在について、これほど深く考察を重ねることになるとは、もちろんその時は考えもしなかった。

ホワイトゴールドの黄色みを限りなく抜き、
ピュアな色彩へと整える。
鏡面の光沢を磨き上げ、反射の純度を極めることで、
光と影はより強く際立つ。
昼があるから夜が生まれるように、
白が澄むほど、影は深く、静かに育っていく。
小さなリングの中には、
同時に存在するたくさんの時間が流れている。

スタイリッシュな印象に整えたリングの内側は、丸くやさしいラインに削り出した。
指に触れる部分を、なによりも大切にする。
側面はシャープに保ちながら、表面には、気づくか気づかないほどのごく緩やかなカーブを施しているのは、ここだけの話だ。
そして、角をしっかりと落とし、さらに手触りをソフトにする。
おふたりとともに思い描いてきたリングの姿が、いま、ここに生まれつつある。
おふたりの大切な想いも、あるいは、これまで費やしてきた数ヶ月の日々そのものも、いっそう輝いて感じられて、喜びがどんどん広がってくる。
目指すフォルムは、やわらかなスクエアシェイプだ。
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