海が荒れて、島に船が来なくなってから、きっと5日ほどが経っただろうか。
それでも、台風が直撃しなかったのは、本当にありがたい。
迷走を繰り返す台風の進路をいつも気にかけるのは、島で過ごす夏の風物詩のようになっている。
強く吹き付ける雨風の気配に包まれながら、作業机に向かう時間は、案外とても好きだったりもする。
屋久島の植物たちが、これほど生き生きとした躍動感に満ちているのは、その厳しい自然環境によるものである、と聞いたことがあるけど、なるほど。
台風が過ぎ去ると、わたし自身も、いつもフレッシュで真っ白な気持ちになることができる。
ジュエリーに宿る、ふわりとあたたかで、やさしげな美しさもまた、どこまでも深く、研ぎ澄まされた場所から生み出されるのかもしれない。
さて、
今日もひとつひとつ。
プラチナとイエローゴールドでかたどったシダの葉が、くるりとリングになるまでの時間は、とても楽しい。
よく眺めてみると、外側に反りながら、内側に向かってカーブを描いているシダの葉っぱ。
鉄の台に添えて、コンコンと叩きながら、滑らかなカーブをつくり出していく。
硬い金属に、少しずつ柔らかな質感が宿っていく。
繊細なデザインではあるけれど、プラチナとゴールドでできた葉っぱは、硬い。
少しずつ、ぎゅーっと力をかけながら、丸い形に。
ここで、初めてリングらしくなり、あの日、お二人と過ごした時間のひとかけらが、形になったような気がして、なんだかとても嬉しかった。
一日の作業を終え、夕暮れどきの海に。
西に車を走らせると、なんと、予想していなかった青空が広がっていて、
ただ普通の空が、なんとも特別なものに感じられて、眩しい夕日をずっと眺めてしまった。
これでまた一つのサイクルが閉じられたのだと思う。
そしてまた、新しい時間がやってくる。
そう思うと、いつもの夏が、とても新鮮で、刺激的なものに思えてきた。
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屋久島サウスに、夏の白い百合が咲き始めている。
散歩道や、車窓の向こうにふと目にする、ゆらゆらと揺れるその佇まいは、繊細で、凛々しい。
ここのところ、いくつかの台風が同時に島に近づいてきた影響で、雨の多い日が続いているけれど、それでも時折訪れる晴れ間を見つけては散歩に出かけ、その白い百合を楽しく眺めていた。
植物というのは、本当に不思議なもので、毎年同じ時期に、同じ場所で、同じ花に出会うわけだけど、
いつも変わらず、あるいはいつも以上に心を躍らせてしまう。
とくにこの島に暮らすようになってからは、植物たちと触れ合う時間がとても多くなり、それにつれて、同じような気持ちを分かち合える人との繋がりも自然と多くなったように思う。
お二人は、今どんな花を眺めているのだろう。
海のずっとずっと向こうに、何気なく思いを巡らせていた。
シダの葉は、もしかすると、屋久島を訪れて一番最初に好きになった植物かもしれない。
森を歩き、ふわりと手に触れたその葉の その生き生きとした緑色と精巧さに感動した時のことを、今でも鮮明に覚えている。
フラクタル係数的な細やかな世界観に夢中になったかと思えば、なかには、自分の背丈よりも大きな葉っぱもあって、その多様性にも驚かされた。
この葉っぱを摘んで、身に纏うことができればどんなに素敵だろう。
そう思ったのは、とても自然なことだったように思う。
さて、アトリエです。
プラチナでかたどったシダの葉は、まさに、実物と同じくらいの大きさだった。
糸鋸で輪郭を切り出し、精密ヤスリでその輪郭を整えていく。
数日間にわたる、とても繊細な作業だったけれど、それがようやくひと段落したところだ。
とても静かでシックな作業ではあったけれど、コツコツと積み重ねるその時間は、植物たちの歩みに似ているのかもしれない。
地道な日々の行いが、やがてダイナミックな変化や美しさをもたらせてくれる。
いつも身近にある植物たちの時間に習うように、ひとつひとつのタッチを丁寧に重ねていく。
葉の中央に走る茎の部分は、イエローゴールドで作ることにした。
リングにもなる細いイエローゴールドを、プラチナの葉っぱと組み合わせていくこの工程は、早くもこの指輪作りのクライマックスとなるだろう。
窓の向こうからは、ざあざあと激しい雨音が聞こえてきた。
それにしても、よく降る雨だ。
船も来なくなるし、出かけることもできない。人々にとっては時にハードルとなりうるこの雨も、植物たちには恵となりうるのだから、面白い。
わたしもゆっくりと深めていこう。
島リズムのゆっくりしたジュエリー作りを、いつもあたたかく見守ってくれて、本当にありがとう。
大好きな植物で繋がる結婚指輪作り。
これから、三本のリングを作り進めていく。
胸が高鳴る時間が、わたしたちを待っている。
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完成した結婚指輪を、おふたりにお渡しする日。
夏の陽ざしが降りそそぐ中、ときおりスコールが通り過ぎていく。
明るい雨降りの日。
これまで長く育んできたリングと、
おふたりが初めて対面する瞬間に立ち会えることは、
作り手にとって、何事にも代えがたい喜びのように思います。
リングを交換しているときは、ほんの少しだけ、呼吸を忘れてしまうような。
静かな歓びに満ちた、幸せなひとときでした。
おふたりとは、これまで海をこえて、メールやお電話でご一緒してきたけれど、
こうして実際にお会いすることができて、
完成したリングとおふたりの印象とが、ぴたりと重なり合ったというか、
これは本当に、おふたりのためのリングなのだなあと、
我ながら、しみじみと思いました。
たしかに形あるものではあるけれど、
この小さなリングには、形をもたない大切な想いが、どこまでも広がっている。
それは、今ここに咲いた花のように、
かけがえなく、美しいもののように思うのです。
おめでとう。
ありがとう。
いつの間にか雨は上がり、庭先にはチョウチョが飛び交い始めていました。
海から吹き上げる風に乗って届く波の音が、少しずつ大きくなってきています。
夕方の飛行機で帰路につかれるということで、
長くご一緒したオーダーメイドの時間も、いよいよ一区切りを迎えることになりました。
屋久島では縄文杉登山もできて、サルにも会えて、
よりいっそう、これからの楽しみが広がりましたね。
そしていつの日か、またお会いして、お互いの近況を話し合うことができれば、何よりも幸せに思います。
春からご一緒してきた日々を、もう懐かしく思い返しながら。
今朝も雨降りの、屋久島サウスのアトリエにて。
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