雨降りの朝だった。
穏やかに降り注ぐ、春の雨だ。
ちょうどこの日は、1日を制作に充てる予定だったから、なんだか嬉しくなった。
屋久島ならではの潤いに包まれる、雨の日の制作がとりわけ好きだ。
窓の向こうの緑は、しっとりとその色を深めて、
こぼれ落ちそうなほどの雫を抱いたハイビスカスの赤が、ひときわ鮮やかに浮かび上がっていた。
お二人の結婚指輪作りは、プラチナリングの削り出し作業を始めたところまでを書きました。
シンプルを特別に。
お二人とともに目指してきたのは、快適な付け心地と、そこにそっと宿る装飾の美しさであったように思う。
これから毎日をともに過ごす結婚指輪だからこそ、
まるで体の一部のように感じられる、やわらかでフレンドリーな時間をお届けしたい。
さて、
シンプルさの中に、自然な質感や手仕事の温もりが感じられる造形とは、いかに。
造形作業がひと段落した彼女のリングを横に置き、彼のリングを削り出す。
表面を、丸く、柔らかく。
二本のリングの呼吸をぴたりと合わせるように、同じフォルムへと整えていく。
手の大きさに合わせて、彼のリングは少し幅を広くすることにした。
見た目にはほとんどわからない程度だけれど、ほんの少しだけ厚みも持たせている。
今年の始まり、冬のアトリエでお会いしたお二人の印象を思い描きながら、
少しずつ、少しずつ。同じタッチを繰り返していく。
そのようなシンプルな作業を、ただ続けるうちに、心がすーっと平らになっていくのがわかった。
リングの内側の造形は、とくに大切にしたいところ。
指にふれる内側にも、鉄鋼ヤスリを入れ、丸く、柔らかな曲面を作り出しておく。
気がつけば、山々の上には青空が広がっていた。
窓を開けると、南国特有の湿度がふわりと部屋の中に入り込んでくる。
5月の甘い香りが漂っている。
わたしは、ずっと遠くを眺めながら、大きく深呼吸をする。
なんだか、とても淡々と、
満ち足りた時間が過ぎていくのであった。
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