アトリエの庭先が、初夏の彩りに包まれ、楽しげに華やいでいる。
ハイビスカス、白百合、ブーゲンビリア、月見草。それからティーツリーのふわふわした花も。
その組み合わせには、南国ならではの多様で自由なムードが漂っている。
一年ぶりに出会うこの甘い香りも嬉しくて、
一日をほぼ、この小さなアトリエのまわりで過ごしていた。
作業場の窓を全開にして机に向かい、
ときおりその手を止めて、庭先で花々を眺める。
いつもの、五月のリズムである。
ちょうど今、島じゅうに咲き誇る白い百合。
咲き始めが端正で、そこには無垢な美しさがあるように思う。
朝、目を覚まし、窓の向こうを眺めるたびに、新しい開花に出会える。
日々、休むことなく成長を続けていく植物たちの力強さに、励まされながら。
お二人とは、夏の屋久島でお会いする約束をしています。
オーダーメイドのジュエリー作りでは、ふとした瞬間に、それまでにはない新しいデザインに出会えることがある。
お二人との出会いがあって、大切な想いがあって、インスピレーションを分かち合いながらデザインを育んでゆく。
それは、一人ではたどり着けない場所へと導かれてゆくような感覚なのかもしれない。
ご結婚10周年を迎えるお二人には、月をモチーフにしたネックレスを、ペアでお作りすることになった。
互いを照らし合い、ともに歩む道のりに、そっとあかりを灯す、ふたつの月。
同じ丸いフォルムをベースとしているけれど、メンズとレディースの素材を反転させて仕立てていく。
三日月のタイミングを基調としたフォルムも、節目となる10周年に、ふさわしいもののように感じられる。
まるでこのデザインがお二人のために用意されていたような。
不思議な感覚に包まれながらも、確かな手応えを同時に感じつつ、今日も作業机に向かっている。
丸い月の中に、時間の気配を感じられるように、満ち欠けの表情を与えていく。
糸鋸を使って、丸と三日月のかたちに切り抜いたイエローゴールドのプレートを、立体的に組み合わせていく。
小さい月と、ほんの少しだけ大きな月。
レディースとメンズの凹凸を反転させるようにして、バーナーの火の中に入れ、重ね合わせた金属をつなぎ合わせていく。
接続作業を終え、酸化膜をきれいに落としたあと、鉄鋼やすりで表面を削り出していくと、端正な丸いフォルムが現れた。
ようやくここで、造形のベースが整った、というところだ。
何にせよ、すべてが初めて向き合う工程なので、少し先の未来を思い描きながら、注意深くタッチを進めていかなくてはならない。
お二人が屋久島を訪れる夏までには、まだ、十分な時間がある。
少しずつ、少しずつ。
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