春一番が吹いて雨が勢いよく降った翌朝に、庭先には新しい花々が姿を現していました。まるで長い眠りの時間から呼び起こされたように。
季節が進むにつれてお二人のプラチナリングも形を成してゆく。柔らかな雨だったり、タンカンの実りも。間違いなく一度だけの結婚指輪作りなのだなと、清々しく思いながら作業机に向かっています。
ちょうど庭先に水仙が咲いていた頃に、とか、あの時はシロツメクサが広がっていたよね、などなど、花は時間セットになっていることがあるように思います。
大切な時間を包み込んで、その表面にそっと貼り付けておく印のようなものなのかもしれません。
たしかにわたし自身も、初めて島に来た時に咲いていたツワブキだったり、森に咲いていた白くて小さな花をモチーフにネックレスを作っていた日々のことは今でもまだ鮮明に覚えているような気もします。
オオヤマレンゲの花。
実は初めて知った花の名前でもありました。お二人にはどんなストーリーがあるのだろう。
「北アルプスの森に咲く花を小さな印にしてプラチナリングの内側に彫刻してほしいのです!」デザイン作りの一番最初にお二人がそう伝えてくれました。
「おじいちゃんやおばあちゃんになっても出会った頃のキラキラした心を大切にしていたいのです」と。
大切な想いや出来事はもちろん一人で抱くこともあるけれど、
もしも誰かと一緒に抱くことができるなら、それは二人の夢になってどこまでも広がってゆくのだろうなと思います。
そして、こうやって出来上がった結婚指輪もまた一つの印のようなものになってゆくのかもしれないな、と思うと喜びが溢れてきます。
お二人の時間には今はわたしも含めて三人の時間になっていて、お互いの認識は重なり合い、また未来へと繋がってゆく。そんなジュエリー作りがとても楽しく、特別に思えるのです。
さてさて、今日のアトリエです。
造形がひと段落した彼のリングからバトンをタッチして、彼女のリング作りであります。
お揃いのプラチナリングではあるけれど、それぞれがどこか違っている。
違っているからこそ引き寄せられて、重なり合って、一つになるようなイメージで。
リングの表面にはスムーズに流れるラインを表現したかったので、手を止めることなくここまで一気にやってきた。無垢の表面も、散りばめられた無数の破片たちも。プラチナの輝きは柔らかくて綺麗だなと思う。
気がつけば作業も折り返し地点を過ぎているな。
海に潜るような深い集中と、世界と繋がる調和の感覚と。
今だけの時間を確かにキャッチしながらタッチを積み重ねてゆきたい。
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