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ふたつのかたち。夏へとつづく朝 #屋久島でつくる結婚指輪

リングの造形作業を無事に終えると、島には夏の気配が漂い始めていた。

空は青く澄み渡り、南国の日差しを受けて、雨上がりの雫が強く輝いている。

春先にお二人とお会いしてから、季節をひとつ通り抜けてきたのだなあと、シャンパンゴールドのリングを眺めながら、しみじみと思い返していた。

 

緑の中にリングをかざすと、葉の隙間を通り抜けた光を受けて放たれる煌めきに、思わず魅入ってしまう。

葉っぱは風に揺られ、影になったり、光に包まれたりを繰り返す。

それに応えるように、シャンパンゴールドが色合いを変え続ける。

光の強さによって、その表情を多様に変化させるのが、ゴールドの素敵な魅力だと思う。

 

相談会の日、アトリエでお二人とサンプルリングを囲んでデザインを考えていたとき、そこにはこれといったルールや方針のようなものは、なかったように思う。

お互いの個性を大切にしながら、そして寄り添いながら、ひと組のリングをともに作り上げてきた。

 

彼のリングは、丸く、柔らかなフォルムに。

彼女のリングには、表面に切り込み模様を施して、リズミカルな印象に仕立てた。

このあと、さらにお互いに変化を加えながら、仕上げ作業を進めていくことになる。

少しずつ異なっていて、それがかえって一層、お揃いの雰囲気を深めてくれているような、

そのようなお二人のリングが、わたしもとても好きだ。

 

雨上がりの早朝。

庭先には、力強い虫の音が響いている。

わたしはリングを眺めながら、その小さな輝きをお二人の印象に重ね合わせている。

散歩から帰ってきたお隣さんが、「おはよう、暑いねー」と言いながら、日傘をさして前を通り過ぎていった。

今日も、島の何気ない日々が穏やかに営まれてゆく。

その中で、お二人のリングもまた、たしかに育まれてゆくのだった。

制作編

静かなひかりとシャンパンゴールド。手の中でリングを育むこと。#屋久島でつくる結婚指輪

静かなひかりとシャンパンゴールド。手の中でリングを育むこと。#屋久島でつくる結婚指輪

重たい湿度が、島をすっぽりと覆い尽くしている。

それでも、雲の合間から陽光が差し込むと、山々の稜線が輝き出し、汗ばむほどの暑さを感じられた。

 

今日も、気温が高くなりそうだ。

そう考えながら、早朝から作業机に向かっていた。

 

薄暗くしたアトリエで、酸素バーナーにカチリと火を灯す。

造形がひと段落したばかりのシャンパンゴールドのリングを炎で包み、真っ赤になるまで温度を上昇させていく。

まずは最初の第一歩だ。

 

金属は、焼きなますと柔らかくなり、叩いて圧力をかけると、再び固くなる。

そのコンディションに変化を与えながら進めてゆく工程は、生き物と向かい合っているかのようで面白い。

 

シャンパンゴールドが緊張を解くように、少し柔らかくなったところで、リングに緩やかなカーブを与えていく。

鉄の枠に当て、木槌を使って、コンコン。

芯金に通し、円形を整えるように、コンコン。

彼のリングには、少し強めのカーブを。

彼女のリングには、なだらかなカーブを与えていく。

 

リングに滑らかな流れのようなものが宿るように、

手の感覚だけを頼りに、造形を進めていかなくてはならない。

 

理想とするフォルムの美しさは、いつも島の自然の中に眺めている。

ゆっくりと、少しずつ、繰り返す変化を前にすると、

リングを育んでいるような気持ちになる。

 

一通りの作業を終え、リングのシルエットを窓際に差し込む光の中で眺めた。

シャンパンゴールドの穏やかな色彩が、島の緑と静かに響き合っている。

外では、また雨が降り始めていた。

しとしと雨音の中でリングを眺めていると、そのフォルムが心地よくて、湿度の中にすっと溶けていきそうな気がした。

屋久島でつくる結婚指輪

オーダーメイドのお問い合わせはこちらまで
hp@kei-jewellery.com
tel: 0997-47-3547

 

 

制作編

ふたつのリングがひとつになるとき #屋久島でつくる結婚指輪

ふたつのリングがひとつになるとき #屋久島でつくる結婚指輪

リングの輪郭が、少しずつ明瞭に浮き上がってきた。

シャンパンゴールド、2.5mm幅。

お揃いのスタイルではあるけれど、それぞれのリングに、細やかな個性を宿らせるように作り進めている。

 

 

シャンパンゴールドに刻む、海のリズム。

大好きな海でつながる結婚指輪作り #屋久島でつくる結婚指輪

 

お二人とは、春のアトリエでお会いすることができました。

雨のち晴れ、ハイビスカスと新しい緑と。

海とシャンパンゴールド 大切な想いで繋がる結婚指輪作り #屋久島でつくる結婚指輪 

 

オーダーメイドでジュエリーをお届けしていると、そのデザインはまるで小さな分身のように、それぞれの人たちに、どこかとても親しい空気を纏って生まれてくるように思う。

 

とくに結婚指輪作りの場合はそうかもしれない。

日々の暮らしに寄り添い、お二人の大切な想いを伺いながらデザインを形にしていくと、ひとつひとつに繊細な個性が宿る。

けれどもそこに、確かなつながりが芽生えてくるのがとても興味深い。

 

その瞬間を間近で見守っていると、とても幸せな気持ちに包まれる。

偶然のようでいて必然を思わせる出来事に触れ、お二人が出会いこれまで育んできた時間を、想わずにはいられない。

 

これからタッチを重ねるごとに、少しずつ、それぞれの個性が生まれてくる。

そして、ふたつのリングは、やがてひとつになる。

 

リング表面の削り出し作業がひと段落をし、次は内側の造形に取り掛かることにした。

ヤスリを当て、内側を丸く、なだらかなカーブに整えていく。

左側のエッジを一周削り、同じ強さで右側も削る。

僅かに角度を変化させつつ、もう一度左をなぞりながら一周。

浜辺に打ち寄せる波のように、均一なリズムでタッチを繰り返していった。

 

こうした単調な反復作業が、案外と好きだ。

金属を削る小さな音が響くアトリエの中で、心がすっと平になっていくのがわかった。

 

庭に白いハイビスカスが咲き始めたら、夏がもうすぐそこまでやってきている合図。

 

お隣さんから、畑で採れたばかりのスモモをいただいて、さっそく少し食べてみたら、まだまだ酸っぱすぎた!

気がつけば、また同じことをやっているような。

毎年のことのはずなのに。

忘れていた季節の驚きにふと立ち止まる。

スモモはもう少し時間をかけて、甘さが深まるのを待つことにしよう。

ジュエリー作りも、島の時間に寄り添いながら、ゆっくりと育んでいこう。

 

 

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大好きな海でつながる結婚指輪作り #屋久島でつくる結婚指輪

屋久島サウスに、夏の気配が漂い始めている。

梅雨のあいだ、水平線に重たくかかっていた雲は、ずいぶんと薄れてきた。

 

昼間はぐっと暑さを感じるようになり、久しぶりの晴れ間に誘われて、ビーチへ出かけることにした。

浜辺をのんびりと歩いていると、打ち寄せる波の勢いや、少しひんやりとした水が、とても心地よかった。

 

いつものビーチは、アトリエから車で15分走ったところにあり、平日の昼間には決まって誰もいないので、心を静かに整えるにはちょうど良い場所かもしれない。

新しい制作が始まる前には、ここにやってきて、作業のイメージをゆっくりと広げていく時間がとても好きだ。

これから結婚指輪をお作りするお二人と、大好きな海で繋がっているということも、なんだか素敵なタイミングのように思えた。

 

緩やかな風が、山から海へと通り抜けてゆく。

水平線の方角から差し込む光が眩しくて、思わず目を細くする。

潮騒に包まれているのに、不思議と、静けさの中にいるように感じられる。

 

そうだ、このフィーリングなんだ。

ほんの15分ほどだったのに、気がつけば、新しくなっている自分がそこにいた。

 

アトリエに戻り、さっそく作業机に向かい、指輪作りに取り掛かることにした。

鉄鋼ヤスリを手に取り、リングの表面を思い切りよく削り出していく。

光も音も、風も。まだ海の余韻に包まれている。

 

水の中にいる時も楽しいけれど、海にまつわる暮らしやジュエリー作りが、やっぱりとても好きだなと思う。

 

お二人がアトリエを訪ねてくれたのは、島に新緑が芽吹き始めた春先のことだった。

一緒にコーヒーを飲みながら、お二人の出会いについて、思いきって訪ねてみたのだけど、

「二人ともサーフィンをしていて、海で出会ったのです」と話してくれたのが、とても印象的だった。

 

「本当に、海の上で?」と、わたしが聞く。

「そう、海の上で」と、おふたりが笑って言う。

 

屋久島と千葉と。遠く離れた場所に暮らしてはいるけれど、大切なことで繋がっていることが、嬉しい。

こうして指輪作りをご一緒できることが、自然の流れの中にあるように感じられて、心から信じられるように思う。

おふたりとの、素敵な出会いにありがとう。

 

夕暮れ時には、一日の作業がひと段落した。

作業机の上に並べた二本のリングを眺めると、削り落とされた金属片がキラキラと輝いて綺麗だった。

お二人のリングは、お揃いのシャンパンゴールドで作っている。

 

シャンパンゴールドには、ゴールドの煌びやかさの中に、どこか植物のような穏やかさがあり、有機的でやわらかな手触りを感じることができる。

自然の中で過ごす時間を愛するお二人に、ぴったりの素材のように思う。

 

これまでお二人と大切に育んできたイメージが、いよいよかたちになり始めたところだ。

じっくりと、ひとつひとつのタッチを重ねていこう。

このシャンパンゴールドに、海のリズムを刻み込むことができればいいと思う。

When a Wedding Band Echoes the Engagement Ring in Quiet Joy #YakushimaWeddingRingsStories

I made a leaf ring to pair with the flower ring I had created for her engagement.

This is the story of a wedding band in quiet harmony with the engagement ring.

 

Yakushima Island – California. It’s been almost five years since we first connected through email.

Thank you for the warmth you always share.

Under the Cherry Blossoms in Kyoto #YakushimaWeddingRingsStories

 

In Kyoto, I handed him the wedding band. It was such a joyful moment—our very first time meeting in person.

We celebrated their wedding together, surrounded by the soft mood of cherry blossoms.

An Octagon Ring for the Rhythm of the Seasons #YakushimaWeddingRingsStories

 

They asked me to make a wedding band set with four colored stones, as a symbol of the four seasons.

It felt so like them—those who appreciate the quiet beauty of Japan’s seasons, its gentle rhythms, and the culture born from nature.

I remember it didn’t take long to find the right design for their wedding bands.

 

I tried stacking two rings.

Their contours are designed to fit together perfectly.

There’s a special joy in custom-made work—being able to share a one-of-a-kind expression.

The flowers and leaves are in gentle harmony.

The diamonds, emerald, and three shade of sapphire shimmered brilliantly in the sunlight filtering through the hibiscus tree.

Tiny pink gold grains scattered across the ring seemed to dance with joy, strengthening the connection between the two rings.

It was a hot day, hinting at the arrival of summer.

At the studio, where the hibiscus are in full bloom.

I looked up at the brilliant sky, wrapped in a quiet sense of happiness.

Congratulations on your marriage.

 

After a long while, even the mountains were bathed in a fresh blue sky.

響き合い、ひとつになるプラチナリング #屋久島でつくる結婚指輪

ひさしぶりに降り続いた雨の勢いが弱くなってきたところ、傘を片手に、お気に入りの場所まで出かけることにしました。

道沿いに、ぽこぽこと咲き連なるアジサイを眺めるのが、この季節の一番の楽しみになっています。

 

ブルーにグリーン、ときどきピンク。

晴れ続きだったせいか、今年は花の数が少ないようにも感じましたが、

手のひらよりも大きな花房を眺めていると、胸の奥が静かに揺れるような、ときめきを感じました。

今年も会えてよかった。

 

お二人の結婚指輪が完成する頃には、いよいよ島にも、夏の気配が漂い始めているかもしれません。

けれども、あと少し、この雨の時間を楽しみながら。

アトリエでは、彼女のリングに続いて、彼のリングの削り出し作業を終えました。

まだまだ荒削りなプラチナの表面を、紙やすりで磨いていきます。

240番から始め、400番、600番と、少しずつ目を細かくしながら整えます。

ここからは、手の感覚だけを頼りに、リングの中になめらかな流れのようなものを生み出していきます。

 

ひととおり、表面を整えたところで、次は内側です。

ここでもまた、鉄鋼ヤスリを使い、削り出すところから始め、

そこに、ごくなだらかな曲面をつくりました。

こうしておくと、指とプラチナが触れ合う部分に、柔らかく、快適な質感が生まれるのです。

 

この指輪が完成するときは、お二人と指輪にとっての新しい始まりでもありますから、

ずっと長くお使いいただけるように、きちんと仕上げて、送り出したいなと思うのです。

 

ここで、初めて二本のリングが出会います。

窓際でそのシルエットを眺めてみると、差し込むやわらかな光がリングの輪郭をくるりと巡るのがわかりました。

その光は、螺旋を描きながら、二つのリングを繋ぎ合わせているようにも見えました。

 

響き合い、ふたつでひとつになるような。

指輪作りの始まりから、お二人とともに抱いてきた、大切なテーマがありました。

出会うことって、本当に素敵です。

 

 

二本のリングには、これから刻印を施し、いよいよ最後の磨き仕上げ作業へと工程を移してまいります。

気がつけば雨も止み、空が明るくなってきました。

また、暑くなりそうです。

 

ありがとう。

指輪作りにやさしく寄り添っていてくれた屋久島の季節が、静かに巡りゆくのを、愛おしく眺めていました。

 

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制作編

雨の日のジュエリー作り。響きと静寂。プラチナリングに巡る軌道 #屋久島でつくる結婚指輪

 

 

雨の日のジュエリー作り。響きと静寂。プラチナリングに巡る軌道 #屋久島でつくる結婚指輪

夜更けから、激しい雨が降り続いている。

6月になってからはずっと晴天が続いていたけれど、ようやく梅雨らしい気候になったのかもしれない。

 

窓の向こうからは、ばちばちと、ハイビスカスの葉を叩く雨音が聞こえてくる。

緑はどこまでも深まり、まるで水に包まれるような感覚にとらわれる。

その深淵に、呼吸を合わせるように、心も平らになっていく。

雨の日のジュエリー作りが、とても好きだなと思う。

 

 

プラチナリングに宿る、光と影の印象。

お二人の結婚指輪作りは、二本のプラチナを酸素トーチの炎に包み、くるりと巻いたところまでを書きました。

南国の光あふれる日々の中で、お二人の結婚指輪を作っています #屋久島で作る結婚指輪

 

さて、そしてこれからいよいよ、プラチナリングを切削する工程に入るわけだけれど、

使う道具は、案外、とてもシンプルだったりもする。

鉄鋼ヤスリ(目の粗いものと細かいもの)とルーペ。

そして寸法を計測する定規と、それをリングに記すための毛描きコンパスとペン。

小さな金槌はコンパスを調整するときに使うもの。

 

いつも思うのだけど、道具をできるだけシンプルに整えると、金属の手触りがダイレクトに伝わってきて、一つ一つのタッチが楽しくなる。

 

雨の日に眺める、しずくの煌めきだったり。

夜に眺める星屑だったり。

まったく別の方向へ向かっているように思えるものたちが、

実はいつも隣り合っていて、お互いを際立たせ、補い合っている。

そのようなことを、島での暮らしが教えてくれたように思う。

 

きっと数時間ほどだっただろうか。

二本の鉄鋼ヤスリを片手に、一気にここまでやってきた。

 

夢中になって、時を忘れるほどだった。

雨音の心地よさも、作業の集中を深めてくれていたように思う。

 

削り出した斜面がエッジを作り出し、星の軌道のように、緩やかなカーブを描きながらプラチナリングの表面を巡っている。

角度が急なところ、なだらかなところ。

リングを回すたびに、違った表情が現れる。

 

指輪をつけたとき、いつも新しいきらめきに出会うことができると、楽しくなる。

 

造形作業が進むにつれて、近しい未来を思い描くようになる。

 

このリングがお二人の手に届くまでは、もう少しかかるけれど、それまでの時間も、大切に味わっていこう。

 

削り出した彼女のリングの向こうには、まだ手を加えられていない彼のリングがある。

ここでバトンをタッチして、彼のリングの削り出し作業に取り掛かることにしよう。

彼女のリングを横に置いて、そのシルエットをなぞるように、かたち作っていこう。

 

雨は、相変わらず激しく降り続いていたはずなのに、不思議なほど静かだった。

目の前でたしかに育まれゆくシルエットを愛おしく眺めながら、その清らかなひと時に身を委ねていた。

 

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南国の光あふれる日々の中で、お二人の結婚指輪を作っています #屋久島で作る結婚指輪

島に訪れる初夏の気配をすぐそこに感じながら、作業机に向かっている。

梅雨の真っ只中のはずなのに、今年は驚くほど晴れの日が多い。

作業の合間に庭先へ出てみると、木陰に入らないと暑すぎるほどで、木々の隙間から通り抜ける日差しが眩しかった。

 

 

眩い輝きに包まれた、プラチナリングの印象。

キラキラと輝くこの南国めいた日々は、お二人の結婚指輪作りに、ちょうど良いタイミングだったかもしれない。

プラチナと煌めき。夏の予感と、結婚指輪作りの始まり #屋久島でつくる結婚指輪

 

ジェリーに使用する金属の中でも、プラチナは独特の色調と、コントラストの強い輝きを持っている。

影になる部分はどこまでも深く、光は眩しいほどに、銀白色に抜けてゆく。

光沢仕上げで磨き上げると、鏡のように、まわりの世界を映し出すのも、好きなところだ。

 

その輝きは、潤いをたたえた水のようでもあり、同時に、夜空に散りばめられた星屑のようでもある。

光そのものを手にするような感覚は、あるいは、時間を纏う体験なのかもしれない。

 

大切な想い。時の流れ。希望の響き。

おふたりとともにあるプラチナリング作りは、いかに。

酸素トーチに火を灯し、プラチナリングの両端を接続する作業に取り掛かる。

1500度を超える炎の中で、オレンジ色になるまで温度を上昇させ、つなぎめに融点の低いプラチナを流し込む。

この時、プラチナからは相当眩しい光が放たれるので、室内を暗くし、遮光のサングラスをかけて作業を進めなくてはならない。

高温での工程を終えると、プラチナリングは初めてひとつのものとなり、強さを手に入れる。

とてもシンプルな作業ではあるけれど、結婚指輪作りにおいて、強度を決定する大切なところだ。

これから始まる新しい日々の中で、長く安心してお使いいただけたら、嬉しい。

 

プラチナの接続作業がひと段落し、ほっと一息。

太陽の光の下で、そのシルエットを眺めておく。

 

まだまだ金属の塊ではあるけれど、いよいよ造形作業のスタート地点に立った、というところだ。

これから鉄鋼ヤスリを片手に、ガリガリと造形作業を進めていくことになる。

硬くて冷たいプラチナに、昼間の木漏れ日のようなあたたかさを宿せたらと思う。

 

ふと、足元に目をやると、ネコが木陰で佇んでいる。

どうやら昼寝をしているようだ。

遠くからは、風に乗って海の音が聞こえてくる。

そういえば、土曜だ。

少しずつ、少しずつ、

島の何気ない日々が、今日も織りなされてゆくのだった。

 

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プラチナと煌めき。夏の予感と、結婚指輪作りの始まり #屋久島でつくる結婚指輪

青く輝く蝶を見たのは、久しぶりだった。

屋久島サウスでは、ここのところ晴れの日が続いていて、日差しも強くなってきている。

生垣のブーゲンビリアは色鮮やかで、光と影のコントラストが気持ちが良い。

 

 

庭先に出てみると、南国独特の重たい暑さが感じられる。

涼やかな木陰に佇み、これから始まる制作に向けて、心を整えていた。

手の中にあるプラチナが、緑の中、静かで、涼やかな煌めきを放っていた。

 

足元のシダの葉を眺める。そして木々を見上げ、緑の隙間からこぼれ落ちる光を体いっぱいに受け取って、アトリエに戻り、さっそく作業に取り掛かることにした。

 

 

プラチナをハンマーで叩きながら、くるりとリング状に整えていく。

コンコンと、金属と木がぶつかり合う音が、アトリエの中に響く。

はるか昔からずっと変わることのない、手作業の音だ。

 

 

東京に暮らすお二人から初めてご連絡をいただいたのは、島で桜が咲き始めた春先のことだった。

あれから、海をこえて何通ものメールを交わし、ビデオ通話でお会いすることもできた。

お二人が描いてくれた指輪のイメージからは、あたたかな想いが溢れていて、胸に響いた。

 

気がつけば、もう2ヶ月ほどをご一緒していることになるのか。

7月のご入籍に向けて、指輪を完成できるように、ともにオーダーメイドの日々を歩んでいる。

 

 

くるりと巻かれたプラチナを、作業台の上に置いて眺めてみると、

ほんのわずかだが、お二人のリングの姿を、たしかにイメージすることができた。

 

工程に要する時間は、数日といったところかもしれない。

けれど、これまで積み重ねてきたデザイン作りたったり、お二人が長く理想を育んできた日々を思うと、一つひとつのタッチが、とても大切なものに思えてくる。

 

お二人と、わたしと、屋久島の季節が出会い、ここに生まれた、一度だけの結婚指輪作りだ。

じっくりと丁寧に、そして思い切りよく、造形を重ねていきたい。

 

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梅雨の晴れ間とハイビスカス。屋久島で出会い、始まる結婚指輪作り #屋久島でつくる結婚指輪

大阪から車を走らせて、お二人がアトリエまで会いに来てくれました。

待ちに待った結婚指輪の相談会。

眩しいくらいの光に包まれた、爽やかな午後のひとときでした。

 

 

アトリエでは、サンプルリングを囲みながら、たくさんお話を交わしました。

デザインや素材のことはもちろん、

「実は、私も最初は、車で大阪から屋久島に通っていたのですよ」と、懐かしい思い出話でも盛り上がりました。

 

案外、こういった何気ない会話から、大切な入り口のようなものに出会えたりするものなのです。

 

「なかなか迷いますね」と言っていた彼女が、不意にぽつりと呟いた言葉がきっかけになって、デザインの輪郭が浮かび上がってきた瞬間を、とても鮮明に覚えています。

 

そのデザインはまるで、ずっと前からここにあって、お二人がやってくるのを待っていたみたいに、不思議なくらい腑に落ちるものでした。

 

新しい暮らしを始めるお二人とご一緒できる指輪作りは、いつも発見と喜びに満ちています。

 

アトリエの庭先にはハイビスカスがいっぱいで、

チョウチョたちも楽しげに飛び交っている。

梅雨の晴れ間が、本当に夢のようでした。

 

屋久島の心地よい空気と、お二人の響き合う呼吸に導かれるようにして始まった結婚指輪作りです。

 

広い海を越え、細い糸のようなつながりに紡がれて、今という時間を分かち合っているのだと思うと、この出会いを、指輪をつくることを、強く信じることができるような気がしました。

 

お二人と、この島で出会えたことに感謝します。

 

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雨とエンゲージリングづくり。やわらかな日々の記憶。#屋久島でつくる結婚指輪

小さな花が集まって、包み込むように。少しずつ、リングが形になっていく。

菜の花は、集まり咲く感じが、とても好きだ。

作業机に向かい、イエローゴールドの小さな花を手にしていると、こころが癒されていくのがわかる。

 

寒さがまだ少し残る頃。

海風にゆらめく黄色い光。

雨上がりのしずくを大切そうに抱いて、きらめいている。

小さなミツバチが集まってきて、賑やかな羽の音が聞こえてくる。

 

島が新しい季節を迎える、祝福のような響きが、胸のずっと奥の方から広がってきた。

 

細いゴールドリングの上には、3つの花を、気持ちの良いバランスで並べた。

ここはとても感覚的なところである。

 

花と花の隙間には、小さなゴールドの粒を散りばめてゆく。

集まる花々。雨のしずく。

 

リングに何度も火をあて、温度を上昇させながらの作業だったので、金属が溶けてしまわないよう、細心の注意を払わなくてはならなかった。

 

無事にすべての接続作業を終え、一息をついたあと、初めてそのフォルムと対峙することになる。

有機的なバランスを宿した、やわらかな佇まいに仕上げることができたように思う。

 

そして、これまで重ねてきた足跡を、きれいにならしていくように、ゴールドの表面にヤスリをかけていくところだ。

 

窓の向こうでは、しとしとと雨が降り注いでいる。

庭先では、ピンク色のハイビスカスが咲き始め、南国の夏が、いよいよ訪れることを告げている。

そういえば、ときおり暑さを感じる日も、少しずつ多くなってきた。

このリングが完成して、海の向こうにお届けする頃には、きっと、この長い雨も、終わりに近づいているのだろう。

 

お二人との出会いと屋久島が紡いでくれた、一度だけの指輪作りだったと思う。

素敵なご縁に、ありがとう。

 

まるで水の中で過ごしているように感じられる、潤いの日々を、なんだか少し名残惜しく感じながら。

深まる緑に包まれて、お二人の婚約指輪を作っていた日々を、愛おしく思いながら。

 

 

 

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制作編

やさしさで紡ぐ婚約指輪。島で生まれる花のかたち #屋久島でつくる結婚指輪

やさしさで紡ぐ婚約指輪。島で生まれる花のかたち #屋久島でつくる結婚指輪

雨の多い日々の中に、ときどき晴れ間がやってくる。

そのタイミングを見つけては、少しだけ遠出をしてリフレッシュできるのが、最近の楽しみになっている。

朝の5時前には空が明るくなり始め、夕暮れ時には、19:00を過ぎても海に入っていることもできる。

そしてまた、深い雨が降り続く日々が戻ってくる。

 

優しくて、そして力強く繰り返される島のリズムに、息を合わせるようにして、お二人の婚約指輪作りを進めていた。

 

お花をモチーフにしたジュエリーを作るときは、実物に近い繊細な仕上がりを意識することが多いのだけど、今回のお花は、ツユクサよりも二回りほど小さいくらい。

リングも、その小さなお花に合わせ、細いものを組み合わせてゆく。

島の暮らしの中に出会う植物たちのやわらかさや、しなやかな佇まいを、形にすることができれば、何よりも嬉しい。

 

婚約指輪は、どちらかといえば、フォーマルな印象が強く、上質な仕上がりを目指してお作りしているのだけれど、植物からインスピレーションを受けたジュエリーには、日々の暮らしに馴染む、親密さのようなものがある。

ちょっとしたお出かけの日にも、そしてもちろん、何気ないいつもの日にも。たくさんの場面で寄り添ってくれると思う。

植物や金属に感じる、包み込むようなやさしさが、とても好きだなと思う。

 

いくつものパーツを組み合わせながらリングをかたち作っていく。

静かで、デリケートな作業が続いている。

 

ガスバーナーの炎に包み、イエローゴールドをつなぎ合わせ、丁寧に磨きをかけ、また火を入れる。

アトリエでは、とてもスローに、単調なリズムが繰り返されていく。

 

窓の向こうから、また雨の音が聞こえてきた。

朝の海の余韻が、まだ体の奥に残っている。

 

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